いつもの夢

大きな旅客機に乗っている夢を見た

夜のようで乗客の殆どが寝ていて静かだった

僕は窓際の席に座って本を読んでいた

すると反対側の窓際の席で読書灯が付きそこに座っている人の顔が見えた

シルビア・クリステルに似ている女性だった

彼女も僕に気づき軽く会釈をしてくれた

彼女は退屈しているらしく何度も僕の方を見ているのが分かった

暫くすると客室の様子を見に来たのだろうか機長らしき男がやって来て

彼女に話しかけた

昔からの知り合いのようでもある

機長は周りを伺いながら彼女の耳元で何か囁いた

彼女は驚いたようだが男の顔を見つめてゆっくりと頷いた

すると機長は彼女を抱き上げて後尾のトイレへ入っていってしまった

夢の中でこれはエマニュエル夫人だなと僕は思った

ドアが閉まる直前に彼女は振り返り僕を観た

ばつの悪そうな表情だった

何だか寂しい気持になって僕は窓の外を見ていた

雲間から月が輝き黒い島影が見えた

どれくらい時間が経ったのか分からないが

随分してからトイレのドアが開いて先ず機長が出てきた

帽子をとった額には汗が浮いていた

男がいなくなると彼女が服の乱れを直しながら同じドアから出てきた

そして席に着きながら僕の方を見て声を出さずに「あなたのせいよ」と言うのだ

その顔は泣きべそをかいてるようにも微笑んでいるようにも見えた

思いがけないメッセージに僕は動揺し慌てて読書灯を消して目を閉じた

彼女も読書灯を消したようで客室は暗くなった

闇の中で僕は彼女の言った事を繰り返し呟きながらその意味を探ろうとした

あの表情は何だったのだろう

そしてこの自己嫌悪は何処から来るのだろう

勿論答えは見つからず僕はそっと目を開けて彼女の方を見た

するとどうだろうさっきまで眠っていた乗客全員が立ち上がり

暗がりの中で僕を指さして「あなたのせいよ」と言っているではないか

だれも声は出していないが沢山の言葉が僕を殴打する

矢継ぎ早に飛んでくる意識のつぶてに打たれながら彼女を見ると

それはそれは幸せそうな顔で眠っているのだ

するとさっきの機長がやって来て非常ドアを開けながら僕に言うのだ

「さあ出て行け」と

「それしかないだろう?」と